Osamu Kobayashi, Shigekazu Tomizuka, Shota Shimizu, and Ryuichiro Machida (2020)Sertoli cells in the freshwater pearl mussel Margaritifera laevis (Bivalvia: Margaritiferidae): A histological and ultrastructural study. Tissue and Cell 64 (2020): doi.org/10.1016/j.tice.2020.101342

→ リンク

私たち、長野県須坂東高校 小林 収 教諭(筑波大学生物学類卒)と菅平高原実験所昆虫比較発生学研究室のメンバー: 町田 龍一郎 特命教授、富塚 茂和 博士 (現 里山科学館松之山「森の学校」キョロロ 研究員)、清水 将太 博士(現 松本秀峰中等教育学校 教諭)は、本州や北海道の清流や渓流に生息する淡水産の二枚貝“カワシンジュガイ”の精子形成過程を、光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて、詳細に検討・観察してきました。その結果、これまでの二枚貝の精子形成の理解を一新してきましたが、本論文は、精子形成過程でのセルトリ細胞の構造や含有物の変化を詳細に検討、観察したものです。

セルトリ細胞は、精巣内に存在する体細胞の一つで、精子形成過程において重要な役割を持つことが知られています。カワシンジュガイのセルトリ細胞には、大量のグリコーゲン顆粒 glycogen granule、高電子密度小粒 electron-dense globule、脂質滴 lipid droplet、そして精子モルラ sperm morulaなどの多くの細胞含有物が観察されます。これら含有物の多くは、生殖細胞への栄養供給に関わっているものと考えられてきましたが、本研究によっていくつかの含有物に、これまで知られていなかった新たな役割、意味合いをもっていることが明らかになりました。

 

カワシンジュガイの精子形成は二刀流

精子モルラは、イシガイ科とカワシンジュガイ科貝類のセルトリ細胞内にみられる球形の多細胞集合体です。この集合体は、役目を終えた生殖細胞がセルトリ細胞に食作用によって取り込まれ、消化、吸収される過程を示しているものと考えられてきました。ところが、今回の研究で、セルトリ細胞によって取り込まれた生殖細胞は、間もなく核の染色質が凝集して精子モルラとなり、やがてセルトリ細胞による分解を受けることなく分裂を繰り返し、最終的に精子に分化することがわかりました。つまり、カワシンジュガイの精子形成には、前報で私たちが記載した定型精子形成(Kobayashi et al., 2018: リンク

と今回の報告によって明らかになった精子モルラを介した精子形成の二通りの方法が存在していたのです。精巣の発達の良い個体では定型精子形成が、発達の悪い個体では精子モルラを介した精子形成が主に観察されたことから、二枚貝は栄養状態により精子形成様式を使い分ける繁殖戦略を持っていたのです。

 

淡水中で精子の寿命を維持する精子球はどのように形成される?

イシガイ上科の貝類では、繁殖期のオスが水中に放出した精子の中に精子球と呼ばれる精子の集合体が多数観察されることが知られています。この精子球には、放精された精子が遠く離れたメスに届くまでの間、淡水中で精子の寿命を維持する働きがあると考えられてきましたが、その起源と形成メカニズムは不明のままでした。今回のカワシンジュガイでの研究により、まず、セルトリ細胞内で形成され腺房内に放出された脂質滴が多数集合して大きな脂質滴が形成されます。そして、精子球はこの大きな球体となった脂質滴に無数の精子が集合することで形成されたのです。本論文は精子球の起源と形成メカニズムを初めて明らかにしたものです。

セルトリ